サンデル先生の共同体主義: ハーバード白熱教室の感想めいたもの

NHK教育で放映された,「ハーバード白熱教室」のマイケル・サンデル教授は,ジョン・ロールズのリベラルな「生議論」に対して,共同体主義と(ある意味不適当に)括られる立場から,反論を試みた人として知られています.

ロールズの「正義論」は,「ハーバード白熱教室」でもかなり長い時間取り上げられていました.そして,サンデル教授自身が,その「正義」構想自体にある種の魅力があることを認めていたように思います.

ロールズは,単一の共同体対的価値観が形成されていると思えないアメリカの哲学者です.つまり,多民族・多宗教国家において,各個人や各種共同体(民族・宗派)についての価値観を平等に認めた上で,中立な「正義」概念を社会存立の基盤を優位に置くという構想を前面に出しました.

サンデル先生がまとめるに,「ロールズは,社会は多くの,異なる目標・利益・善の概念を有する個人・共同体から成り立っているために,特定の「善」「正義」を選べないので,中立的な正義を中心に位置させれば,うまくいくと楽観している」というわけです.

実際,サンデル先生の授業を大講堂?で受けている1000人近くのハーバード大学の学生の人種・民族は実に多様です.

サンデル先生は,若かりしころジョン・ロールズの正義概念から負荷なき自己(unencumbered self) にトップダウンに降ってくる「正義」と,共同体に対する帰属意識に起因する状況ごとの自己(situated self)のもつボトムアップの「善」は対立する.そして,両者の対立は政治的な典型的な対立構図の背景となり,全体主義への道筋をつけてしまう.という警鐘を鳴らしました.それが,サンデル先生の名声を高めたわけです.

私が,「ハーバード白熱教室」を見ていて面白かったのは,第11回で共同体論を展開したときに,学生席に下りてきて共同体論とリベラル派のディベートをリベラル派にあえて肩入れして仕切っているときに,共同体的義務(愛国心)とリベラル派の普遍的な正義概念からの義務の整合性について「私には,わからない」と発言をしたあと,「あ,答えを言ってしまった」と言っていたことです.

そして,番組の最後で,1950年代の人種分離を支持する南部白人男性へのTV番組インタビューを示して,「共同体」的価値から安易に正義・善を引き出すべきでないということを学生に諭していました.この段階で,共同体に依拠するかつてのサンデル教授自身のリベラル派批判を後退させているという印象を持ちました.

そして,このことは,番組の第12回での,感動的な講義の終え方の伏線になっていることに,あとで気づきました.
(サンデル教授が番組の最後で紹介したウォルツァーの考えが,ある種の反照的均衡になっているとも解釈できますし・・・)

それにしても,(ビデオを見返してみても感ずるのですが)ハーバード大学の学生たちの高い知性に驚かされます.日本のトップクラスの大学生が,この程度,知的に成熟しているとはとても思えないです.勝負になりません.

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この記事へのコメント

2012年09月09日 15:49
ブログ拝見させていただきました。少し気になったのでコメントさせていただきます。
ブログの中で以下のような文章が使われています。

それにしても,(ビデオを見返してみても感ずるのですが)ハーバード大学の学生たちの高い知性に驚かされます.日本のトップクラスの大学生が,この程度,知的に成熟しているとはとても思えないです.勝負になりません.


ここについてなのですが、サンデル教授が東京大学にこられて授業なされたのはご存じですか?
その授業では全員がサンデル教授の質問にしっかりと答えておられましたよ(もちろん英語です。)

あなたが「日本のトップの学生がここまで知的とは思えない」とおっしゃられるのはトップの学生をご存じないからではないでしょうか?

ちなみにハーバードで行われたサンデルの授業は20~30人のグループに分けられ、それぞれにチューターがつきます。
そしてそのチューターがグループ内で出た意見をあらかじめサンデル教授に報告し、授業前には誰にどのような質問がされるか決められているそうですよ。
もっとも台本のようなものではなく、会話の端緒となるような質問だけだと思いますが。

なんにせよ(おそらく)日本人であるあなたが日本人の中のトップの学生を「勝負になりません。」なんて言って卑下するのは日本の学生に対して失礼であり、どこか滑稽ですよ。
pahud
2013年06月21日 21:17
コメントありがとうございます.

本家の白熱教室にしろ,東大で行われた白熱教室にしろ,事前に仕込みがあることは熟知した上で,ブログ記事を書いています.

ですから,元祖のハーバード白熱教室に登場してレベルの高い発言をする学生たちの数の多さに驚いた,というのが本当のところです.東大でも,学部生であれだけの人数あのレベルの人間はいないと思います.

日本のトップ大学の学生のレベルが高いと考えておられているようですが,2~30年前と現在ではまったく違います.

いずれにしても,学生の比較については,トップクラスの大学の学生の学力を知る人間であることを信じてもらうしかありません.

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